『時々タイムスリップ』 雨のにおい
放課後の昇降口。
雨の間をくぐり抜けてくるチャイムの音は、あまり響かない。 「この傘使っていいよ」 そう言って傘を貸してくれたのは、同じクラスの中川だった。 紺色の制服の彼女は、傘を渡すと雨の校庭へ消えていった。 あいつ、なんで傘二本持ってんだろ… その時はそればかり考えていた。 砕けた雨の粉がさらさらと舞い上がり茶色のタイルに積もって、彼女の小さな足跡は外へと続いて。 蛍光灯のような空と、雨のにおい。 次の日、傘を返した僕に「どういたしまして!」 彼女はいつもと変わらず元気。 僕の方はいつもと違って。 彼女のことが少し好きになっていた。 時は今。 西武線の改札を出て、券売機のあるスペース。 雨はいっそう強くなって、飛び出す気もいっそう失せてきた。 しっとり濡れた町と、雨のにおい。 そういえば高校の時、誰か傘を貸してくれたな。 ……中川だ 夕暮れの改札。 雨の間をくぐり抜けてくる踏み切りの音は、あまり響かない。 しかし見事な雨やった。 小降りの街角、傘をさしてシャッターさ。
by a-kessay
| 2006-05-16 23:02
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